大山鳴動して鼠一匹
実家の両親が、もはや何度目か数えるのも面倒くさくなった欧州旅行へと出かけた。
親父殿ときたら、この日のために新しくPC運搬用のリュックを購入する念の入れようだ。
母上殿のほうは最近、血圧がどうの心臓がどうのと言っていたが、適切な投薬のおかげで、長時間のフライトでもOKということになり、喜んで出かけていった。
医術の進歩のおかげで、年老いてからの生活をも楽しませてもらえているわけで、母にとっては、ありがたいかぎりだろう。
だが、しかし。
文明の進歩は、ドイツの父をして日本の娘を走らせることにもなる。
生憎さいわいなことに父は生きてるんだけど、今日の午前中だけで、死せる孔明に走りまわらされた仲達の気分を、とっくり味わうことができた。
前回の欧州行の轍を踏むならば、しばらくは携帯が圏外の地域にいるはずだから……と油断してたが、考えたら、こういうときのためにMacBookを背負っていったんだな、あの人は。
あっち(ミュンヘン)の空港に着いてすぐ、あの書類がどうなってるか確かめてこいの、処理してなかったら銀行へ行けの、という指令メールが飛んできて、私の一日は朝から、しっちゃかめっちゃかの大騒ぎである。
なにしろ、うちの父というのは、私に似て──というか、私が父に似たんだろうが──整理整頓ができない人なのだ。
その父の、おぼろげな記憶にしたがって、ぐちゃぐちゃになってる父のデスクから必要な書類を探しだし、書類の処理に必要な印鑑やら何やらを探しだし、果ては、その書類を持って銀行へ走って行ったら、
「問題ありません。すでに処理されております」
と来たもんだ。
そりゃあ脱力もしようというもんである。
しかも、それだけ文明の利器を使いこなしていながら、見事にヌケているのも我が親ならではと言うべきか。
両親が残していったメモに従って、実家のマンションで郵便ポストのロックを解除しようとしても開けられないのだ。
何か中で引っかかっているのでは……ということになって、管理人さんが懐中電灯を片手に、ポストの投入口のほうから中を探ってくれたが、止めていったはずの新聞が入っていただけでカギがどうかなっている様子はない。
仕方なく、もう一度、父に確認のメールを投げたら何のことはない、ロック解除(右へ何回、左へ何回まわす)という方法の左右が逆だったというオチである。
管理人さんにも要らぬ手間をかけてしまい、申しわけないこと、このうえない(汗)
そして、父の事務所の電話は私の携帯電話に、FAXは我が家のFAXに、転送するように設定されている。
両親が帰国するまでに、私は何度、走らされることになるのだろうか。
手間賃、要求したいところだけど……多分また、綺麗な絵ハガキとかで誤魔化されるんだろうなぁ……(苦笑)
ま、しかたないね。