訃報

 
 今日は一日、何が何でも動きまわらなければならない、と判っている日の朝に、訃報を耳にすると、流石にへこむ。
 丸一日、ひたすら喪に服すことも許されない状況というのは、けっこう厳しい。
 町内会のバス旅行当日、幹事が黙って座ってることは許されんもんなぁ。
 
 氷室冴子が亡くなられた。
 享年51歳。
 まだまだ、お若いと思う。
 コバルト文庫で、随分と楽しませていただいた。
 最近は、エッセイを目にすることのほうが多かったかな。
 自分の「考え」を、的確な言葉で「表現」することのできる人だったと思う。
 読者に対し、自分の「考え」を過不足なく伝えられる人、とも云えようか。
 もっと長く生きて、もっといろいろなものを書いていただきたかった。
 もちろん、ご本人が一番無念であろうとは思うけれど。
 御冥福をお祈りいたします。
 
 そして。
 野田昌宏大元帥逝去。
 享年74歳。
 長老が逝き、ショートショートの巨匠が亡くなり、私というSF者が歩んできた道を照らしていた人たちが次々にいなくなるなか、元帥という巨星も墜ちてしまった。
 SF翻訳の重鎮としては、浅倉、伊藤、柴野と云った面々が健在ではおられるものの、やはり「元帥」の存在は特別だったんだ、と痛感している。
キャプテン・フューチャー』はもちろん、『銀河辺境《リム》シリーズ』も『第2銀河系シリーズ』も、すべて元帥の翻訳で読んできた。
 それらの本が、SF者としての私を育ててくれたと云っても過言ではない。
 実は、元帥に先駆けること1ヶ月ほど前に、今日泊亜蘭が亡くなられている。
 こちらは享年97歳と云うから、元帥よりもまだ一世代前の方だ。
 海野十三氏などと並んで日本SFの黎明期を切りひらいた人と認識していただけに、この訃報もそれなりにこたえた。
 これもまた、私にとっての「あかり」が無くなったことを意味しているから。
 それでも、私には、御冥福をお祈りすることしかできない。
 心よりの感謝の念をこめて、ただ祈りたいと思う。
 
 年齢から考えて、先達が亡くなるのは当たり前のことであり、いつかは経験せねばならない出来事だと理解してはいるつもりなのだけれど、自分にとっての特別な存在がいなくなるのは、やはり、つらい。
 これから先、遺された作品を読みかえすたびに、なんとなく寂しくなるだろう。
 それでも読まずにはいられないほどの作品を遺してくださって、ほんとうに、ありがとう。