病院の待合室って…

 
 先日、持病の癪(違)の定期的な薬をもらいに、総合病院の産婦人科へ行った。
 医師の人数が多いうえ、半数ちかくが女医さんであるせいもあって、いつも混雑している産婦人科だから、定期的な投薬ならば、近所の個人病院で処方してもらっても構わないのだが、上の子を産むよりも前、すでに15年分ちかいカルテが蓄積されている総合病院のほうが、何となく安心できる気がするのだ。
 いつも混雑しているだけあって、待合所も常に混み合っている。
 たくさんの椅子が用意してあるのだが、いつ行っても、ほぼいっぱいの状況だ。
 
 だが最近、どうも気になることがある。
 待合所の椅子の3分の1くらいを男性が占めているのだ。
 私のお腹に子どもがいたころは、普通の定期検診に付き添ってくる配偶者など、ほとんどいなかった。
 最近ではイクメン(育男、と書くのかな)という言葉が出てきているように、父親も子育てに積極的に参加しよう、母親が妊婦のうちからいたわり、ともに育てる気持ちを養っていこう、という傾向があるらしく、検診に付いてくる配偶者も少なくはない。
 そのこと自体は悪くないと思う。
 母親が十月十日の間、赤ん坊をお腹の中で育てるのが、どれほど大変なことか、自分のものとは違う、でも、自分にいちばん近い生命を育てるのが、どれほど貴重な体験なことか、父親にも理解できるのではないか、と思うからだ。
 
 だけどね。
 付き添ってきたダンナが自分の荷物で椅子ひとつ占領して、膝の上でDSとかしてるってのは、どうよ(汗)
 奥さんのほうも、呑気に雑誌とかめくってるから、調子が悪くて付き添ってきたというふうには見えない
 なかには、ダンナと奥さん、それぞれの荷物で椅子をひとつづつ使ってて、4つの椅子を夫婦2人で占領してるなんてパターンすら、ある。
 私が待合所に入ったとき、そんな感じの夫婦が結構いて、椅子はほとんど埋まっていた。
 空いてた椅子も、ダンナのコートが半分ハミ出てるような場所だったので、壁にもたれて立って本を読んでることにした。
 でもこれは、投薬だけっていう立場の私だから出来ることであって、お腹は目立ってなくても妊娠してる人だったら、長時間を立って待つのはツラいだろうし、産科オンリーではなく婦人科外来もあるのだから、外から見えない病気でしんどい思いをしている人の可能性もある。
 なのに、立ちっぱなしの女性を見ても席を譲る様子もなく、どっかり座っている旦那衆が多いのには、少々おどろかされた。
 いたわるのは自分の女房だけで良いってか?
 そんな父親と、そんな父親に何も言えない母親に育てられる子どもって、どんなふうになるんだろう……なんてことも不安になってくる。
 
 ……などと考えていたら、1歳を過ぎたか過ぎないか、という子どもをベビーカーに乗せた女性がやってきた。
 そんな年ごろの子がいるのだから、当然、大きな荷物を提げている。
 受付に母子手帳を出したところを見ると、弟か妹がお腹のなかにいるのだろう。
 そんな女性を見ても、どの男性も全く立とうとしないのだ。
 奥さんたちも、ちらっと見ただけで、自分のご主人に席を譲るように促そうとはしない。
 一人で検診に来ていると思しき女性たちが気の毒そうに見ていたが、その人たち自身、大きなお腹を抱えている身では席を譲りたくないだろうし、譲られたほうも座りづらいだろう。
 さすがに、これは、ふんぞりかえってる男性陣に声をかけたほうが良いかもしれない……と思って、身を起こしたら、受付からベテランの看護師さんが出てきた。
 私が小学生のころ、新米の看護師さんとして入ってきて以来、ずっとこの病院で働いている人で、私も何度お世話になったか判らないようなベテランさんだ。
 彼女は4つの席を占領している夫婦に声をかけ、荷物をダンナの膝の上に乗せて、女性が座れる席を空け、近くにベビーカーを置けるよう、てきぱきと指示をした。
 なるほど、ああいう場面では「指示をする」のが大事なのかもしれないな、と思ったね。
 迂闊に下手に出て、
「譲ってもらえますか?」
 なんて言った日には、
「なんで俺たちが──」
 とか、ぶつくさ言われるのは目に見えてるから、最初から「そこを空けて、この人を座らせてあげてね」と言い切ったほうが、相手も文句を言えないだろう。
 どう見ても、自分たちが我儘な態度を取っていることに間違いはないのだから。
 でも、今回は注意されて席を空けたけど、次に来たときに何も言われなかったら、やっぱり自分たち優先で、自分から席を譲ることはしないんだろうな、あの男性たち。
 子どもがお腹にいるころからモンスターペアレンツってことなのかなぁ……と、恐ろしいことを考えてしまった私なのであった。