なるほどねぇ

 
 いま、週に2〜3日の割合で、学区の公民館の当番を引き受けている。
 受付に座って電話番をし、使用申し込みの手続きを受け、館内外の掃除をしたりする──要は「雑用係」である。
 雑用係ではあるんだが、学区の住民であるという条件さえクリアすれば、安く使用できるため、けっこう多くの利用者があって、それなりに対応が忙しい。
 利用者は、お年寄りや親子づれ(就園前のお子さんと、その母親)が多い。
 シルバーエアロビクスやヨガ教室、子育て支援リトミック教室、書道や詩吟、社交ダンスの教室、風変わりなところでは『源氏物語』の講義や、阿波踊り連の集会……と、利用内容も幅広い。
 
 その「『源氏物語』講義」の先生は、いつも和服を身に着け、香の匂い(間違っても線香ではない)をまとった典雅な初老の女性だ。
 その先生が、先日の教室の際、お手製と思しきペットボトルホルダーを忘れていかれた。
 忘れ物である旨をメモ書きにして付け、受付でお預かりしていたのだが、なんとなく違和感がある。
 500mlのペットボトルを入れるにしては、ちょっと背丈も高いし、直径も広めのような気がするのだ。
 でもまぁ、大は小を兼ねると云うし、お手製だから、少し大きめになってしまったのかもしれないな……と思っていた。
 
 ところが、そうじゃなかったんだな、これが。
 
 今日、先生がいらしたので早速、ペットボトルホルダーをお渡しした。
「そうそう、これがないとね、困ってしまうのよ。
 取りに来よう来ようと思っていたのだけど、なかなか取りに来られなくて……ごめんなさいね、長くお預かりいただいてしまって」
 言いながら、先生はお手持ちの手提げの中から、ペットボトルを取り出された。
 500ml入りの、お茶のペットボトルだ。
 その上に、使い捨てのプラスチックのコップが、かぶせてある。
「これを、こうして……と」
 先生は、コップごとペットボトルをホルダーへと入れた。
 大きめのホルダーに、プラスチックのコップをかぶったペットボトルが、すっぽりと収まる。
「ありがとうございました。それじゃ、今日もよろしくお願いしますね」
 そう言って、先生は教室へと入っていかれた。
 
 受付に残った私は、思わず唸ったね。
 なるほど、そのためのお手製であり、そのための大きめだったわけだ。
 考えてみれば、着物姿の御婦人が、ペットボトルから直接お茶を飲む姿は、あまり考えたくない。
 それが、普段から着物を着慣れておられる、ある程度お年を召したかたであれば、尚更のことだ。
 公民館には湯飲みなどが常備してあるし、自由に使っていただいて構わないのだが、この先生は、あとで片づける人の手間を考えて、ご自分で使い捨てのものを持っていらしてるのだろう。
 今の私には到底、真似のできない仕種だが、いつかトシ喰ったときに、ああいうふうに振る舞えるようになりたいなぁ……とは思ったのだった。
 ま、「トシ食った」とか言ってる段階で論外だろうけどもね(苦笑)