人の縁

 
 私宛てに簡易書留が届いた。
 クレジットカードの切り替えなら「配達証明」のはずだし、第一そんな時季じゃないはずだし……と思って受けとったら、ディーラーから送られてきた新しい車検証だった。
 世界で唯一、この会社でしか製造してないエンジンを積んでいる、という理由から、定期点検も車検も、すべてディーラーで行なっている。
 私にとって、ロータリーエンジン搭載の愛車・RX−8は、それほどに大切な相棒だし、購入したときには、ディーラーで応対してくれた人たち(営業さん、サービスさん等々)とも、同じ車を愛しているという思いが、お互いに確かに存在していることを感じあえていた。
 
 ところが。
 まず、自分の車のように、私の車を大切にし、パーツひとつひとつまで自分で確かめてから交換してくれていた工場マンのおにいさんが転勤になった。
 できることなら、彼を追って、点検場所を変えたいぐらいだったけれど、車で1時間以上かかる場所への転勤では、それもかなわなかった。
 それでも、他の工場マンさんたちが、きちんと引き継ぎを受けてくれていて、ちょっとしたことにこだわる私の話も丁寧に聞いて、問題を解決してくれたので、そんなには不安にならずに済んだ。
 その後、私が車を買った直接の相手である営業さんが転職された。
 自分自身も車を大好きだった、その営業さんにとって、車を「道具」としてしか売れない世情は耐えられないものになっていたのかもしれない。
 彼の後に、我が家の車2台の担当になった営業さんは、保険の更新すら、
「今までどおりでイイですよね」
 と電話一本で済ませるような人だった。
 でも、実際に車をさわるのは工場の人たちだから……と思ってきた。
 そして先日、車検の予約を取るためにディーラーに連絡したところ、今まで見てくれていた工場マンさんたちが、ほぼ全員、転勤になってしまったことを聞いた。
 ただ、業務を引き継いでくれた新しい工場マンのおにいさんは、まだ若い感じだったけど、熱心に話を聞いてくれたし、車検を終えたあとの車の感触も悪くなかったので、引き続き、このディーラーで世話になっていくんだろうな……と、ぼんやりと考えていた。
 
 そこへ、簡易書留で「車検証」が届いたわけだ。
 前の営業さんや工場マンのおにいさんは、
「車検証、来ましたけど、車の調子はどうですか?」
 と、車検証の到着にかこつけて、車検後の様子をそれとなく尋いてくれたりしたものだ。
 でも、それがなくなっちゃったんだね。
 封筒に入って届いた「車検証」は、私の車に無くてはならないものなのだけれど、なんだかすごく味けなくて。
 ちと寂しかった。
 工場マンのおにいさんは感じ良かったけど、ディーラー内部で、工場と事務方の仕事が完全に二分されている様子だったので、ヘタしたら彼は「車検証」が来たことも知らないままかもしれない。
 どこか感じのいい町工場みつけたら、点検先を乗りかえようかなぁ……