感覚の問題

 
 世の中、いろんな人がいる。
 そんなことは、よく解ってるつもりでいた。
 だけど、実は全然、解ってなかったらしい。
 
 町内会の役を決める際、子ども会に加入している世帯の人間が集まり、すったもんだがあった挙句、私のとある提案が却下された。
 別に、誰が損をするわけでもない、強いて云うなら、我が家の負担がちょっと増えるかな、ぐらいの提案だったんだが、
「ひとつの家に役が偏るのはちょっと……」
 とか何とか言われて却下されたわけだ。
 べつに、なにか役得があるような役じゃない。
 どっちかって云うと、雑用係みたいなものだから、役が偏ろうがどうしようが、他の人は楽こそできても損はしないはずだった。
 損はしないはずだったんだけど、却下されちゃったんじゃ仕方がない。
 その役は、今までどおり、2年交代で順々に持ちまわり、ということに決まった。
 
 ところが、である。
 この話し合いの次第を知らなかった町内会の執行部(会長、副会長と云った面々)が、とある家へ、私が言ったのと全く同じ提案をしたらしいのだ。
 会長みずからが、その家へ電話をし、
「あんたんとこなら、お任せできると思うで、ずっと役をやってくれんか」
 と頼みこんだらしい。
 驚いたのは、その頼まれた家が、
「会長のお願いなら仕方がないですね」
 と二つ返事で、その依頼を引き受けたことだった。
 私が同じことを、しかも、私の負担になる形で提案したときには、
「役が偏るのは良くない」
 だの何だの言って、案を却下しておきながら、である。
 これから先、町内に越してくる人に、この町内は役をずっとやらなきゃならないって先入観を与えかねない、とかも言ってたよな。
 なのに、会長──つまり、偉い人から声がかかったとき、
「そういうことを言ってくれる人が他にもあったんですよ」
 と言うんでもなく、
「会長のお願いだから……」
 と、嬉々として要請を容れるとは。
 なるほど、世渡りというのは、こういうふうにやるものなんだ、ということが判って、目から鱗が落ちる思いだった。
 目から鱗が落ちたついでに、あまりの感覚の違いに目眩がして、二日間ぐらい寝込んでしまった。
 ここまで感覚が違うと、いっそ清々しいとさえ云えるが、その境地に達するのに二日間かかったわけである。
 
 いやぁ、人間、不惑を越えるほど生きていても、とてもじゃないが、惑わずには済みそうにない。
 しかし、あの会議に出てた人は、あの人がずっと同じ役をすることを承諾したって聞いたら驚くんじゃないかなぁ。
 だって、すんごい反対してたもん、私が提案したときに。
 あれは要するに、
「そんな、えぇカッコしぃなこと、私以外の人にはさせないわ」
 という意味だったんだろか。
 本人に聞くわけにもいかないが、どうにも、そのへんが引っかかる出来事ではあったのだった。