JT、23銘柄を廃止へ

 
 嫌煙家のかたがたには何の感慨も湧かないニュースだろうけれど、今回の大震災を機に、震災前から売上が良くなかった23銘柄を廃止することになったことを日本たばこ産業が発表した。
 仕方ないよなぁ……と思うと同時に、寂しい気持ちがするのも確かである。
 今回、廃止が決まった銘柄のなかには、少なからず私の思い出に直結する煙草が幾つか含まれていたからだ。
 古いところでは「チェリー」が、そうだ。
 叔父(母の弟)が喫っていた銘柄で、子どものお遣いと云えば煙草屋へ小銭を握って走っていくような時代、よく遣いに行かされた。
 母の実家では誰一人、喫煙者はいなかったのに、叔父だけが喫っていたから、もの珍しいのもあったのだろう。
 私は、叔父の周囲に漂っている煙草の香りが好きだった。
 叔父自身、禁煙してから長いので、今回のニュースを聞いても思うところがあるかどうかは判らないが、私にとっては、子どものころの居場所が一つ、無くなってしまったような喪失感がある。
 今の相方と出逢ったころ、彼は「キャメル」を喫っていた。
 甘い香りが好みだったらしい。
 相方のおとうさまも煙草を喫う人で、結婚前のある日、御両親と食事をする機会があって、ちょいと面白い光景を見た。
 御両親も車で、私も相方の車に乗せてもらって食事場所で落ち合い、帰りにはドライバーである相方とおとうさまが一足先に駐車場へと戻っていかれた。
 私は、おかあさまと一緒に駐車場へ向かったのだが、それぞれの車のドライバーズシートで窓を開け、同じように煙を吐きだしてる父子を見て、
「まぁ、そっくりなこと!」
 とおかあさまが笑われたのを、今でも憶えている。
 そのとき、おとうさまが喫っていらした「キャスター」も、相方の「キャメル」も、今回の廃止銘柄に入っていた。
 あとは、個人的にパッケージのデザインが好みだった「セブンスター・ブラック・インパクト」が廃止になってしまうのも、ちょっと寂しい。
 私が「煙草は文化だ」と思っている理由のひとつが、昔から色々と考えられてきた煙草の箱のデザインセンスにあるからだ。
 健康への注意書きを箱に入れることが義務づけられてからも、JTは色々と考えてパッケージのデザインを創ってきた。
「セブンスター・ブラック・インパクト」は、冗長な文章が入るとダラケてしまいそうな、黒地に銀色を乗せたデザインを、シンプルにまとめていたと思う。
 
 煙草っていうのは、嗜好品のうちでも好みが強く出る品物なので、こうして廃止になる銘柄を大きく発表してくれるんだろうね。
 いつも気に入って飲んでた飲料が、ある日いきなり店頭から無くなって、発売元のサイトに行っても説明がなくて……なんて思いを何度かしてきた身としては、JTの発表が寂しいのと同時に、非常に潔く思えた次第だった。