常識がズレていく

 
 かの「天声人語」を読んで育つと、世間的な常識までが無くなってしまうのだろうか、と思うような投書が、本日(2011.7.1.)付の朝日新聞「声」欄に掲載されていた。
 
 投書の主は、20歳というから妙齢のお嬢さんということになる。
 自分の本名と一文字だけ違う名前の女性が、ネット上の掲示板に本名や住所、電話番号などを曝されてしまったという話だった。
 ちょっとのことで、本名などの個人情報が割り出されて曝されてしまうのはネットの「陰」の部分であり、これからは、そうした「陰」の部分のことも理解してネット社会に対応していかなければならない、というのが投書の趣旨である。
 
 気持ちは解るよ。
 ネット上に個人情報が曝されることを考えたら、怖いよね。
 年ごろの女性ならば、よけいに恐怖だろう。
 でもさ、この投書者と一文字ちがいの名前の女性が、どうして個人情報を曝されるハメになったかというと、Twitter上で、傘をチョイ借り(要は「盗んだ」んだよな)したことを、ちらっと呟いたから、なんだそうだ。
 そんなもん、曝されても仕方がなかろうが(呆)
 そもそも盗みをしなければ良かった──というか、そんなこと、しないのが当たり前の常識だと思うんだが──んだし、そのことを罪悪感ひとつなく、世界中に発信できちゃう場で言っちゃってんだから、そら曝されもしようというものだ。
 この投書者が、曝された人物が傘を盗んだことについては全く気にかけていないのか、傘を盗んだのは悪いけれど個人情報を曝すほどではないと思っているのか、それは定かではない。
 けれど、少なくとも掲載された投書中では、ネットの「陰」の部分とやらのことばかりが強調され、簡単に他人の傘を持っていくことや、そのことを悪びれもせずに呟いてしまうことについては、まったく触れていなかった。
 
 まぁ……朝日新聞の「声」欄の担当者が、送られてきた文章に好き勝手、手を入れて文意を歪めることは、うちの母の投書の例があるので、一概に投書者を責めることはできないんだけどね。
 
 それにしたって、「傘を盗んだ」ことについては、善悪の区別をつけないどころか、無かったことのようにスルーしてしまう文章構成には恐れ入ったよ。
 人間、そういう恥を忘れちまったら、おしまいだと思うんだけどねぇ……